三重の旅
農家が冬の仕事として始めたそうめんづくり
三重県四日市市に大矢知という地区があります。江戸時代にひとりの僧侶が訪れ、大矢知の農家に一晩泊めて欲しいと宿を乞いました。大矢知地区の人たちはたいそう親切にもてなし、僧侶は彼らにお礼としてそうめんの作り方を授けたのが大矢知の手延べそうめんの起源とされています。三重県の北勢地域は小麦の産地。そして大矢知周辺は朝明川の清流があり、さらに鈴鹿山脈や山麓に降雪をもたらした北西の季節風が、乾燥した「空っ風」となって平野部を吹き渡り伊勢湾へと吹きぬけていく“鈴鹿おろし”のおかげで、そうめんづくりに適した場所だったのです。伝授してもらった農家が冬の副業としてそうめんづくりをはじめ、大正時代には300軒もの製麺所が存在しました。生産量が少なく中部地方以外であまり流通していないためあまり知られていませんが、その実力はお墨付き。手間のかかる作業のため、今では十数軒ほどに減ってしまいましたが、現在でも伝統的な製法を守り美味しいそうめんを製造しているのです。
大矢知手延麺といえば「金魚印」。小麦の中の真ん中の柔らかい部分だけを取り出した一等粉だけを使い、添加物を一切加えず、-1℃になる環境の中で低温で乾燥、じっくりと熟成させる製法で、コシが強く食感のよさが魅力です(ちなみに機械麺は速く乾燥させるためボソボソとした食感になってしまいます)。今回紹介する渡辺手延製麺所のそうめんも金魚印の冠をつけた製麺所。200年受け継がれれる伝統の味を守りながら、一本一本手作りで製造しています。
大矢知手延麺はそうめんだけではありません。どちらかというとひやむぎの方が生産量多いため、認知度が高いかもしれません。1.3~1.7mmの太さで食べ応えがあり、温麺にしても煮崩れせず最後までコシの強さを感じられるのが魅力です。渡辺手延製麺所には、金魚印の手延べひやむぎの他に、九鬼産業太白胡麻油を贅沢に使ったひやむぎもあります。麺を延ばす際に、植物油を使って麺がくっつかないようにするために使われるのですが、ごま油を使うことで酸化しにくく、茹でたときに麺のなめらかさと旨みをアップさせる効果もあります。江戸時代からの製法を守り続ける渡辺手延製麺所と、約140年の歴史を持ち伝統的な圧搾法でごま油づくりを続ける九鬼産業がコラボした特別なひやむぎ。その美味しさをぜひ味わってみてください。