岡山の旅
手延べ麺の里で作られる風味豊かな麺。
吉備の国・岡山県はうどんを中心とした手延べ麺の一大生産地。中でも鴨川地区周辺で作られるそうめんをはじめとする麺は「備中手延べ麺」の名で全国に知られ、播州そうめんの「揖保乃糸」に並ぶ知名度です。清らかな湧き水、瀬戸の塩、そして水車を使った伝統製法で作られる麺は、他にはない唯一無二といっても過言ではありません。岡山県は“晴れの国”と称されるだけあって、手延べ麺作りにとても適しています。そのため鴨川だけでなく、他のエリアでもその土地の気候や自然素材を活かし手延べ麺が作られています。
今回紹介する矢掛町の手延べ麺もそのひとつ。矢掛町は岡山県の南西部に位置する自然豊かな町。春は桜や菜の花が咲き誇り、夏には小田川などに生息するホタルが乱舞、秋にはイチョウをはじめとした美しい紅葉に燃え、冬には小田川からのぼる霧の幻想的な景色や澄み切った空に広がる満天の星。四季折々の表情を見せる日本の原風景がこの町にはあり、最近では観光地としても注目されている町です。
温暖な気候と清らかな湧き水、そして良質な小麦が育つことから手延べ麺が技術が発展。残念ながら、製麺所の数はかつてよりもだいぶ減ってしまったようですが、1977年創業の池田製麺所、通称「イケメン」は、矢掛町に伝わる昔ながらの製法で手延べ麺を作る矢掛町ブランドのひとつに登録されています。小麦粉の豊かな風味とツルッとした喉コシは地元で愛される味。大量生産はできませんが、丹精こめて作られた麺には、生産者である家族愛さえ伝わってきます。
池田製麺所の手延べそうめんも然る事ながら、いま密かに評判になっているのが中華麺。そうめん同様手延べ製法で作られており、ツルツルとした口当たりとモチモチとした食感が絶品。ソーメン二郎さんいわく「コシがすごい!」と絶賛する麺です。乾麺なので、長期保存ができるのも嬉しい! 付属の醤油ベースの特製つゆとたっぷりの野菜やハムなどをトッピングしていただくのがおすすめですが、実は具なしでも麺の美味しさを堪能できるのが魅力なのです。またバリエーションとしてつけ麺もあるので、気分や季節によって食べ分けてみるのもいいでしょう。
現在池田製麺所では3代目が2代目に付いて、歴史と製法を学んでいるそう。手延べ中華麺のように、新時代の麺がここから誕生するかもしれません。そんな期待を持ちながら、愛情のこもったそうめんと冷やし中華を、どうぞ召し上がれ。